こんにちは!トリ女のマミです。
今回は「日英通訳者2年目が、社内通訳者の役割を考える」連載2回目で、駆け出し通訳者のトリ女が、実際の通訳経験をもとに、「社内通訳者の役割」のほか、「社内通訳者の限界」、「社内通訳者は通訳拒否できるのか」という職業倫理までを複数回に分けて考察していきたいと思います。
通訳者としてまだまだ未熟者のトリ女ではありますが、実体験に基づいた考察を皆さまにお伝えすることで、通訳者を目指す方、現役の通訳者、通訳に興味がある方に有益な情報になれれば幸いです。
1回目の記事はこちら。
はじめに
中小企業(資本金1億円以下という定義)で一人社内通訳者として働くトリ女。
転職活動含め、短い語学キャリア人生の経験則ではありますが、専属の社内通訳者(たまに翻訳あり)を雇う仕事量・経済的余裕ある中小企業は多くないと感じています。
実際、下記記事で登場したネームバリューある日系老舗食品メーカー(資本金1億円以下の中小企業)、売上高400億円以上ありますが、面接で怒らせた社長に「うちには通訳専属で雇うほど仕事ないんだよ!」と言われています。
詳しいエピソードはこちら。
そういう環境下で通訳者として経験を積ませていただくためには、通訳以外のお仕事を引き受けるのはもちろん(トリ女、会社のお金回りをみる部署でアシスタントもしてます)、通常の通訳業務についても、プロ中のプロの通訳者は断るような依頼を引き受けることがあります。
そこで今回は、中小企業で働く駆け出し通訳者が、通常の通訳業務で、通訳以外にどういった依頼(+α業務)を求められることがあるのか、みていきたいと思います。
通訳+α業務
駆け出し通訳者2年目のトリ女が、これまでよく依頼された+α業務は、「議事録作成」、「要約」、「説明」の3つである。
特に「議事録作成」と「要約」については、小松達也氏や西山千氏などの著名な通訳者の本にも記載されているが、通訳に集中するため、基本的に受けない依頼である。
それでは、この3つの+α業務についてトリ女の経験交えてみていきたいと思う。
- 議事録作成
社会人未経験の学生も本ブログの貴重な読者なので一応説明すると、「議事録」とは、企業によってスタイルに差異あるものの、会議で話された内容や決議事項を記録した文書である。
日本人による日本人のための会議では通常、あらかじめ決められた議事録係が議事録をとって社内に共有するので、議事録作成が問題になることはあまりない(と思われる)。
が、社長や取締役とその海外カウンターパートとの重要な会議で、参加者をできる限り少数にしたいミーティングでは、議事録作成担当者の選定は意外と難しい。
たとえば、ビジネスが難しい現職では、話題が非常にセンシティブで、特定の人や部署が猛烈な批判をうけることもあり、できる限り批判に無害で、中立な議事録係が求められる。
そういう流れから、業務上メモも取ってる通訳者に議事録とってもらおう!となるのである。
言うまでもなく、通訳者のメモは、短期記憶を補足する通訳用のメモであって、会議内容記録用のメモではないのですが・・・。
トリ女、最初依頼されたときはやや抵抗あったのですが、基本的には議事録作成してます。
と言っても、会議終了後通訳用メモを見てすぐ作成するスタイルなので、実際話した内容よりだいぶ簡略化されてしまいますが、議事録まったくないよりは、簡単なメモ程度でもあった方が良い、という必要性から、現在でも駆トリ女が議事録係になっています。
もちろん通訳中は通訳にできるだけ集中したいですが(通訳用メモ取り最中も「これは議事録用にメモした方がが良いかな」と雑念(?)が入るので)、それでも議事録作成するのは、通訳者としてというより、一正社員として会社の要望にできる限り応えたいからです。
参考までに、通訳者の小松達也氏の議事録(報告書)の見解を下記に記載する。
また初期の頃、特に通訳者だけが同席を許される一対一の会談では、報告書を提出して欲しいと要請されたこともあった。この依頼に対しても、小松たちは断ることを方針とした。
(途中略)
小松 それはやっぱりわれわれは断っています。それは断ることにとって仕事がこないということ、これはあります。ありますけどね。
鳥飼 それでも断っているんですか。
小松 それでも断るんですが、そういうようなことはありますね。それはやっぱりね。サミットでも実はそういうことを要求されたことがありますよ。ですけど、それはわれわれね、ちょっとやりましたけども、少しやってもうやめましたね。それを意識するとやっぱりね、通訳の方に集中できなくなる。だから、当然です、それは。
(鳥飼 玖美子著p262『通訳者と戦後日米外交』)
- 要約
アポロ11号月面着陸の同時通訳で有名になった通訳者西山千氏は、クライアントからの「要約」の要望について下記のように述べています。
「概訳」の問題
「発言を全部通訳するのでなく、大体の内容がわかれば十分だから、概訳してほしい」という注文が時折ある。そういう要求は原則として通訳者に頼むべきことではないと思う。要点を選んで、それだけを訳すという作業は通訳ではないからだ。発言の内容のどの点を選ぶべきかは、通訳者の判断や主観にまかせるべき性質のものではない。それば別の責任ある人が行うべきことである。
西山千氏著『英語の通訳 異文化時代のコミュニケーション』p140 (サイマル出版会)
が、駆け出し社内通訳者のトリ女、会社の要望に応じて「要約」もします。
なぜ要約ができるのかというと、トリ女に驚異的な要約力が備わっているからではなく、コンテクスト(文脈)が事前に分かっているからです。
トリ女の場合、社内事情に通じた通訳者(この場合トリ女)が、(日常的にコミュニケーションとる)特定の通訳対象に対して通訳を行うケースが多いので、会議が始まる前から、どのメンバーがどの議題に対して、どのような考えを持っているのか、というのがある程度理解できています。
そのシチュエーションで会議が始まると、たとえ英語圏スピーカーの話が長くなっても、他メンバーが聞きたいことに合わせて、発言者の発言を要約できるんです。
逆を言うと、比較的疎遠なカウンターパートだと、相手を知らないので要約は基本的にムリです。
相手がどういう意図を持ってその発言をしているのか、言葉だけでは分からない部分があるので、通訳者がその要点をかいつまむのは極めて難しいです。
なのでフリーランス通訳者の西山千氏は、この状況での要約は、通訳者にとって負担が高いと指摘しているのだと思います。
実際こういうシチュエーションで「要約して」と言われた場合、トリ女しれっと普通に通訳してます。
というか、それ以上に良い方法が今のところ見つかっていません。
ほかに良い切り抜け方法ありましたら、皆さまトリ女に教えてください。
- 説明
この「説明」は、社内通訳者特有の+α業務かもしれません。
社内事情にある程度通じているためか、通訳者として参加している会議で「〇〇〇について、(英語圏カウンターパートが)よく分かってないようだから、丁寧に説明してあげて」と急に相手への説明を求められることがあります。
そしてこの一見簡単そうな「説明」、案外難しいです。
その難しさを説明するのも難しいのですが、イメージとしては求められるスキルがまったく違う業務を急にふられた感じです。
通訳業務で脳の一部(例えば脳のA細胞という部分)を集中的に使って、A細胞が興奮状態(逆に言えば、他の細胞はおやすみ状態)のところ、「説明」作業が入り、急にA細胞をおやすみさせて、B細胞をフル回転させろ、と言われたように、頭の切り替えが難しく、普段できそうな簡単な説明が意外とできないんです。
そしてトリ女は3つの+α業務のうち、一番「説明」が不得意です。
おわりに
皆さま、いかがでしたでしょうか?
通訳経験者の方でしたら、特に「議事録作成」と「要約」の依頼を受けた方(実際にしたかどうかは別ですが・・・)も多いかと思います。
駆け出し通訳者のトリ女も、通訳だけに集中できる理想的な環境を求めたいところです。
が、英語人材があまりいない発展途上の中小企業で、一正社員として会社に貢献するためには、できるかぎり何でもやるというスタンスで、不完全ながらも、やらないよりは、やった方が良い精神で+α業務引き受けてます。
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